最近チェコ語教室を始めた。余暇にチェコ語を学ぼうとする子供のための教材を選んでいた。それは自宅の書架の前でのことであるが、思ったのは、随分とたくさんあるのだなということだ。日本語が使われているものだけでも10冊以上はあるだろうか。え、それしかないの? と思う人もいるかもしれない。でも、どうだろう。見たことも聞いたこともない言語をどれでもいい、一つ思い浮かべてみて欲しい。だから無理だとは思うが、仮にできたとして、もちろんそれは、一度も勉強したことがない言語であり、周りにそれを勉強している人もおらず、適切な教材もみあたらず、情報すら得られず、という類の言語である。そういう言語をこれからなんとか勉強して、文法書を記し、そして自分の名前を付して公にする———10冊以上ある、というのは、たくさんにみえる。
この、たくさんのなかから、以下では、ここ20年の間に、三修社・大学書林・白水社という3つの老舗語学出版社からだされたチェコ語の教科書・会話集・単語集をすべて挙げる。すべて日本語で書かれているので、日本語が得意であれば、初めてチェコ語を独習しようとする際には候補へ上げることができるだろう。出版社や教材の形態を限定しているのは、もちろん、すべてを挙げるとすると、あまりにもたくさんになるからだ。その、たくさんのなかには、いまでは手に入りづらかったり、指導者無しでは部分的に語弊のある記述があったりという風に、初めて独習者が手にするには向かないものも、なくはない。ある、ということだが、上記出版社及び出版年のものであれば、比較的入手が容易であり、また、教材形態の限定についても、どれも独習者を前提にしたものとなっているため、適当であると考えることができるということから、これら限定は施された。つまり以下は、日本語で書かれた初級〜中級チェコ語独習者向けのポピュラーかつ主な教材である;
・金指久美子『チェコ語基礎1500語』大学書林、1998年。(2,600円)
・金指久美子『チェコ語会話練習帳』大学書林、2000年。(2,500円)
・千野亜矢子『ニューエクスプレスチェコ語』白水社、2007年。(2,600円)
・金指久美子『チェコ語のしくみ』白水社、2007年。(1,700円)
・金指久美子『中級チェコ語文法』白水社、2010年。(3,800円)
・千野亜矢子『チェコ語単語集』白水社、2011年。(2,200円)
・金指久美子『チェコ語の基本:入門から中級の入り口まで』三修社、2012年。(3,000円)
・高橋みのり『チェコ語表現とことんトレーニング』白水社、2013年。(2,200円)
・金指久美子『変化型で見るチェコ語単語集3000』大学書林、2018年。(4,300円)
表示の定価は、税抜きである。こういう時はあまり価格を載せるものではないが、あえて記した。一般的な書籍や、あるいは英語の普及教材などと比べてのことか、チェコ語の教材を評して、高い、と言う人も少なくはない。が、何十万円もするものではないし、基本的には、高いという感想は、自身の志の低さを示しているに過ぎない。例えば今日1日の食費を思い出してみて欲しい。あるいは昨日の飲み屋代でもいいし、一昨日購入したワンピースの値段でも構わない。先月の美容院代でもいいし、昨年購入した車へつけたオプションの値段でも、いいだろう。車は乗らないからわからないが、たぶん、高い、のではないだろうか? また、どれを選ぶか、ということについてだが、例え独習であっても、どれでも平気である。書名から機能は明確であるから、目的に合わせて選べばいいし、機能が被るものがあれば、装丁や紙面で好ましいものを選べばいい。好きなもので、構わない。
以上、日本語で書かれた初級〜中級チェコ語独習者向けのポピュラーかつ主な教材を挙げた。ここから更に蛇足を要すとすれば、あとは、教材をどう進めていくか、ということだが、語学の、特に初歩段階で大事なのは、わかる/わからないよりも、鵜呑みにできる/できないである。上掲の教材に記された言葉はすべて、道無き森を開拓した先達の言葉であるから、つまりはそれは鵜呑みにすべき言葉である;彼処は泥濘んでいるから避けろ・その先の大樹の下には詐欺師がいるから無視しろ・その裏の野原には獰猛な野獣がいるから脇目も振らずに全速力で駆け抜けろ———指示を守れなければ、命を落とすことになるだろう。教材は埃を被ることになり、それこそ高い買い物に終わることになる。いや、そんなに信用できない、騙されるかもしれないでしょう? と思うかもしれない。まあ、それなら、仕方ない。自分の頭で考えて、自分の経験ですべてを判断するしかない。そういう思考は、たぶん、日本語や、もしかしたら英語や韓国語やポルトガル語でしているのかもしれない。ところでいま学ぼうとしているのは、学んでいるのは、チェコ語だった。教材の言葉を鵜呑みにできないのなら、しなくて構わない。いまの自分の考えを、言葉を、大切に、していればいい。
茫洋とした真っ黒な微睡が、あなたを永遠に守ってくれるだろう。存在しないものが傷つくことは、ないからである。
2018. 11 教室教師
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