「日本語って、とっても難しいんだよ」。こう言うと、なぜかみんな喜ぶ。実は言ったことなんてないのだが、たぶん、喜ぶだろう。そういう番組も、記事も、たくさんある。人を笑顔にしたい人がたくさんいるようで、それこそ、とても、喜ばしい。思わずこちらまで微笑んでしまう。
「日本人にとって一番簡単な外国語は?」というのも、よくきく。これは、本当に聞く。それに、よく訊かれる。その度に、「何語が母語の日本人の話?」と思う。朝鮮語やポルトガル語が母語の日本人もいると思うが、質問のセンスを疑う、とまでは思わないようにしている。そう、「簡単な外国語は何か?」って、話だ。
「イタリア語って発音が簡単なんだよね」。よく言われる。でも、「語頭がs+子音字/zで始まる男性名詞の複数形につく定冠詞〈gli〉」の発音って、簡単かな? と思う。アクセントだって強弱アクセントで、日本語とは違う。そういえば、イタリア語には「巻き舌」の音もある。苦手な人は、苦手だ。英語でよく話題になる「L」の音だって、「R」とちゃんと区別する。「どっちも簡単だよ」と思う場合は、では、「-RL-」と続けて発音できるだろうか? こういう綴りは、結構ある。
「中国語は漢字だから意味が大体わかって楽」とか「朝鮮語は文法が日本語とほとんど同じだから簡単」とかも、よく言われる。でも、よくみて欲しい。中華人民共和国の方の中国語の漢字って、日本のと、ちょっと違わないか? なんて思う。音については、声調というのがあるが、これは、簡単か。発音といえば、朝鮮語には激音とか濃音とかあるが、あれは、「文法の簡単さ」でカヴァーできるほどに、気にはならないものなのか。文字も違うじゃん。
「ドイツ語は難しいぞ」「ロシア語だけはやめておいた方がいい」。逆に、こんなこともよく耳にする。大体が、大学の第二外国語で選択して、嫌な思いをしたということらしい。確かにロシア語はローマ字ではないから、初めは文字を覚える手間がある。ドイツ語も、英語に比べれば少しばかり「格」に目を配る必要があるだろう。でも、「イクラ」とか「ノルマ」って、元々はロシア語らしい。親しみがあるじゃん? という話は、しかしながらあまりきかない。英語で「name」ってあるけど、ドイツ語だと「Name」で、同じだ。でも、「だからドイツ語って楽チンだねっ!」という話は、これもあまりきいたことがない。「難しかった」と言う人に話をよくきくと、「ドイツ語の先生はなんだか顔が怖かった」とか、「ロシア語の先生は試験が厳しくて散々だった」とかが、結局のところ「難しい」と言っている理由みたいだ。それってドイツ語とかロシア語に関係あるの? という気は、しなくもない。
少し批判めいたことを書いたような気もする。でも、結論を言うと、実は、「簡単そうな外国語を学ぶことにするというのは、良いんじゃないか」と感じている。肌に合う合わない、ということは、あるからだ。大学時代に主に学んでいた言語とは違う言語を卒業後専門とし、プロになったという例も知っている。肌に合わなかったみたいだ。そう、「簡単な外国語は何か?」という話だった。
某国が公開している「外国語習得難易度表」について嬉しそうに語る人がいる。多くの国の外務省に相当する機関に、似たような表がある。普段「お役所仕事」を批判している人も、なぜかこういうものは、ありがたがる。でもまあ、目安にはなるかな、とは思う。じゃあそれは、目安として、どれくらいの精度なの? という話になるだろう。そうだなあ―――
「ドイツ語の先生の顔が怖かった」
これくらいかな。
//fine​​​​​​​
Back to Top